「恋人ヘの思い」と「地方出身者の抱く東京のイメージ」が自虐的に絡み合うこの曲を、僕はなぜか、ずっと記憶している。
それは、小気味良いリズム、覚えやすいメロディによるところが大きいのだろうが、それにもまして僕自身が、東京を特別な場所として考えていたからなのかもしれない。
僕は、中学生の時初めて東京に行った。
叔父さんと一緒の東京見物だった。
住んでいる町から特急の発着駅まで汽車で2時間。
そこから東京まで4時間余り。
待ち合せを入れれば悠に7時間~8時間掛る一日仕事だった。
中学生まで信号機さえ必要のない町で住んでいた僕には、東京の街はとてつもない大都会だった。
道路が頭の上を通っているのにとにかくビックリした。
渋谷から銀座線に乗った。
電車が空中を走っていたかと思ったら、突然トンネルになった。
地下鉄だった。
初めて味噌ラーメンを食べた、バターが入っていた。
ソフトクリームも初めてだった。
新宿西口の噴水は、メチャクチャきれいだった。
東京タワーでお土産のメダルを作った。
坊主頭の中学生はビアガーデンにも行った。
髪の長いオネエさんが、ミニスカートでゴーゴーを踊っていた。
「東京」は特別なところだ。
そこに「君」(恋人)がいる。
「君」はそこで生活しいている。
「僕」は「君」から「今度いつ合える」と聞かれる。
でも、答えられない。
「僕」は、まだこの町で暮らしている。
早く「君」と暮らしたい。
だけど、それは簡単じゃない。
小さい時、僕はお盆やお正月が嫌いだった。
叔父さんや叔母さんが、いつもお土産を抱えて帰ってきた。
東京の楽しい話しをしてくれた。一緒に遊んでくれた。
だけど、2、3日もするとみんな東京へ帰って行った。
「またね」、そう言い残して帰って行った。
僕はいつも取り残された。
マイ・ペースの「東京」は、遠距離恋愛の歌だ。
けれど、改めてその歌詞を読んでみても設定や背景が良く分からない。
どうして二人は離れているのか。
「僕」はどうして東京の「君」に会いにいくのか。
「君」から会いに来ることはないのか。
都会に住む「君」は田舎から出て行った人なのか。
実は「僕」は東京の人で、Iターンでどこか遠いところにいるのか、いや、そんなことはないな、「美し都」なんて地方出身者の言葉だ。
「僕」は、東京で「君」と暮らしたいのか、それとも「君」に帰ってきてもらって田舎で暮らしたいのか・・・分からない。
「恋人ヘの思い」と「地方出身者の抱く東京のイメージ」が自虐的に絡み合うこの曲を、僕はなぜかずぅっと記憶している。
それは、僕自身の幼少の時の記憶がトラウマになっているからなのかもしれない。
そういえば、マイ・ペースって秋田出身でした。
東京に行くことを「上京」と言い、上野駅を発着駅とする北国の人には、なにか共通する思いがあるのかも知れません。
2003/08/02(初稿)
2021/03/02(追補)
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東京 (マイ・ペースの曲)@ウィキペディア(Wikipedia)
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東京[マイペース][EP盤]
1/M さよならの数だけ(森田貢)